浮世 M' e Lan chol y

何処かの知らない誰かの話

腐乱臭

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いらっしゃい...ああ、あいつならもう居ないよ

さぁ

どっかで身売りでもしてるんじゃないかい

お客さんも物好きだねぇ

あんな女のどこがいいんだか...




自分の知らない誰かが口を揃えて言う
嘲笑しながら私に向けられている言葉
その言葉を正確には聞き取れない、が
嫌な程に分かる 「あいつに価値は無い」

青天に大翼を広げ空を裂く猛禽類
人は様々な言葉で称賛する
当の鷹や鷲はその際の姿を
知らないまま一生を終えるが価値はある
「価値」は自分が決めるのではなく
他者からの妥当な評価を表すものだ
それに比べ私は自らの姿を飽きる程に
見る事が出来るというのに酷く無様
彼らが言うのは至極まともな正論なのだ


私自身、自分の存在に価値があるなんて
思ってもいないし思えもしないだろう
そもそも私に限らず人間というもの自体に
価値があるとは到底思う事ができない
存在そのもの、ではなく生きている中で 
他者に何を与えられるか、それが価値なのだろう
だとしたら私には価値が無いのは無理もない
生きる事は愚か、産まれた事さえ無価値なのだから

鼻で笑えるくらい自分の良さを知らない
嫌な部分なら腐るほどに知っている
腐りかけの葡萄酒と元が何かも知れない
干した肉があればいくらでも語ってやるさ
その程度で語れる程の人生、虫さえも嗤う

今となってはまるで他人にさえ感じるが
私も淡い希望を抱いて
儚い夢を見ていた頃があった
私は今、晴れ間のない嵐の中にいる
いつ止むのか分からない雨は私を腐らせる


雨に打たれ、ただ濡れて、雨が嫌いなうちは
きっと何も得る事は出来ないのだろう
雨を感じ、雨を好きになれたなら
その時は鬱蒼とした感情の奥にある花に
もう一度水をやり、自らをゆっくり育てよう

その花は綺麗な花ではないかもしれないが
きっといつか、誰かがこの花を見つけて
私という価値を見つけてくれるその時まで

だからせめて今は、今だけはまだ
色が褪せ、枯れかけたこの価値を
埃の被ったこの薄汚い私を
装飾の美しい割れた鏡で眺めていたい

仮に私の失いかけた名の知れない感情と
一瞬限りの誓いとも呼べない気紛れが
許してくれるのであれば今だけと言わず
死ぬまで永遠にこの屈辱に溺れていたい

この何も見い出せない浅はかな考えの中で
現実に背を向けているくだらない時間こそが
今の私にとっての生きる意味、価値なのだから

いずれ消える存在の価値を求めて苦悩し
背を向けたその先に何も無かったとして
意識が遠のき、私が消え失せるその間際
私は恐らく自分の価値観に殺されるのだろう
それでも私に悔いはない。


私の価値を語るには経験が足りない

私の価値を知るには時間が足りない

私が灰になった時

初めて私は私の価値を知るのだろう

その価値を語る奴さえいればの話さ