浮世 M' e Lan chol y

何処かの知らない誰かの話

春夏秋冬

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春ニナリ、桜ガ咲イテ、私ハ枯レタ

夏ニナリ、蝉ガ鳴イテ、私ハ哭イタ

秋ニナリ、椛ガ揺レテ、私ハ落チタ

冬ニナリ、霜ガ降リテ、私ハ消エタ

 

 

幼い頃に何度か遊んだ「あの子」は

何年か前に流行り病で亡くなったらしい

無邪気に笑う人だったことは覚えている

名前はもう忘れてしまったけれど

満開の桜を散らした春の朝雨が降る日

 

いつからだったのかは覚えていない

目紛るしい街の雑踏の中で

日に日に自分の存在価値が薄れて感じた

私は過去に縋り無残に泣き喚いていた

蝉が未来の為に鳴く夏の白昼夢の中で

 

隔離病棟の一室で今日もまた爪を噛む

窓の外の色褪せた椛が落ちそうだ

枯れた葉は他の生き物の養分となる

私は… 

噛んだ爪が赤く染まった秋の夕暮れ

 

痩せ細った汚い腕にはいくつもの点滴

消えかけの灯が薄暗く私を照らす

冷えきっているのは私のすべて

死神は生暖かい眼差しを向けてくる

滔々と白い雪が降りしきる冬の夜空

 

 

季節は悪戯に幾度となく私を巡り続けた

だが、漸く、やっと終わりを迎えられる

この時を待ち焦がれ望んでいた

自分の力で叶えることも出来ただろう

けれど私は怯え、息を吐き呼吸を整え

繰り返す四季の巡りに甘えていたのだ

 

私も遠い春の日の「あの子」

雨に降られて名を失いゆく桜の花弁

蝉が息を途絶えた夏の終わり

存在は薄れるのではなく消え失せる

風に揺れる血の滲んだ秋の窓辺

枯れて腐った心を求める者はいない

死が滔々と降りしきる冬の寒空

消えかけていたのは灯ではなく私の命

 

 

春夏秋冬、其の全てに読めぬ狂乱の風が吹き

人の世に荒波を巻き起こしては気紛れに凪ぐ