浮世 M' e Lan chol y

何処かの知らない誰かの話

氷点下

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急に来てごめんね、だけど

こうでもしないと君は会ってくれないだろう

 

その服、別の男に貰ったのかい

いや、よく似合ってるよ...すごく、ね。

 

 

煙草の煙を纏った「すき」を伝えてくれる君と

僕の夢を葡萄酒で流し込む君が好きだったよ

 

君がどのように産まれ育ち生きてきたのか

どんな人間なのかは勿論知っていたさ

いや、知った気でいた、が正しいのかな

僕は馬鹿な奴だったね

世界の汚さ、残酷さを理解した気になって

失う事は普通の事だと自分に言い聞かせ

あらゆる負の感情を知ったつもりでいた

本当は何一つ理解なんかしていなくて

失う事すらまともに経験しないまま

光の差さないこの憂鬱な世界の中で

虚勢を張って自分を作っていた

だから君から吐き捨てられた言葉を

空っぽな気紛れだと知りつつも

僕は馬鹿みたいに嬉しがったんだ

薄っぺらい僕を愛してくれた気がした

たった一言、君が適当に言った「すき」で

簡単に崩れる程に僕の虚勢は

あってないようなものだった

 

「可哀想な人」 認めたくなかったんだよ

僕の中の意味のない見栄だけの

くだらないプライドが邪魔をした

認めてしまったら何かが壊れそうで

僕が勝手に期待していただけなのに

裏切られたって思ったんだ、ごめんね

君の細くて色も白く美しい

この首も好きだったよ

僕が絞める手に力をいれた時

凛とした表情が少し歪んで

生唾を呑み込むのがよく分かった

僕の事を感じてくれているんだって

「躊躇っている貴方が好き」

苦しそうな声で君は微笑んで言ったけど

君の感情の篭ったそんな言葉は

聞きたくはなかったよ

僕は君に好かれたいとは思ってなかった

君の本心の「好き」なんて要らなかったし

僕に興味を抱かなくてよかった

冷めた君を僕だけのものにしたかった

そんな君だったから惹かれたんだよ

いつものように心無く微笑みながら

吐き出す言葉に煙を纏わせて

偽りの「すき」を伝えてくれる君と

僕の腕の中で静かに眠る儚くて

死人の様な綺麗な君が好きだった

僕が愛した君はもう居ない

その時にそう感じたんだ

僕が変えてしまったんだろうけど

 

嗚呼、ずっと欲しかった、ずっと

嬉しくて涙がでるよ

悲哀や後悔なんて何一つないのさ

涙の理由、君は当てられなかったよ

君も僕を知ったつもりでいたんだね

これからも僕は君だけの為に涙を流すよ

君が何度も笑った薄っぺらい夢物語を

君に語りながら僕が死ぬ時までずっと

こんな幸せはきっと他にないだろうね

君の望みも叶ったんだし

それなのに僕の声が聞こえないなんて

君は「可哀想な人」だ、同情するよ

 

雪が降ってきたよ、君は冬がよく似合う

この世を冷めた目で見ていた君にはね

帰ろう、もうこんなにも夜が更けた

 

今夜も冷える、君の体温よりもずっと。

 

 

形は問わない、生死さえも

欲しいものが手に入るなら

 

暖炉に薪をくべよう

君の好んだ葡萄酒が完全に腐る頃

君もまた同じように腐るのだろう